ポール・グレアム

Y Combinator 共同創業者

致命的なピンチ

2014年12月

多くのスタートアップは会社が消滅してしまう数ヶ月前に、次のような状況を経験する。銀行にはかなり預金があっても、毎月の損失は多く、収益成長率は皆無、または平凡だという状況である。この会社には、言うならば6カ月のランウェイがある。あるいは、もっとひどい言い方をすれば、これは倒産まで6カ月ということだ。彼らは投資家からもっと資金調達をすることでこれを回避しようと望むものだ。[1]

この一つ前の文は致命的なものだ。

投資家たちがどれほど追加の資金提供に関心があるか。これほど、創業者たちが思い込んでしまいやすいことは他にはないかもしれない。初めてのときでも投資家たちを説得するのは難しいものだが、創業者たちはそういうものだと期待している。二回目のときに創業者たちを驚かせるのは、次の三つの力が同時に発生した場合だ。

  1. この会社は現時点で、初めて資金調達したときよりもたくさん消費している。

  1. 投資家たちは既に資金調達した会社に対して、より高い期待を抱いている。

  1. 現時点で、この会社には失敗の文字が見え始めている。最初に資金調達を行った際、同社は失敗でも成功でもなかった。この質問をするには時期が早すぎたのだ。今ではこの質問をすることが可能で、デフォルトの回答は「失敗」だ。この時点では、それがデフォルトの結果だからだ。

最初の段落で説明した状況を、「致命的なピンチ」と呼ぶことにする。造語は作らないようにしているが、この状況に名前を付けることで、いつこの状況に陥ってしまっているのか、創業者たちに理解を促すことができるかもしれない。

致命的なピンチをこれほどまで危険にしている原因の一つは、これには自己強化の性質があるからだ。創業者たちはさらなる資金調達の機会を過大評価している。そのため、収益性の獲得には注意を払っていない。これでは、資金調達の機会がさらに減ってしまう。

致命的なピンチに気付いた今、あなたはこれにどう対処したらいいだろう?もちろん、回避できれば一番だ。Y Combinatorは資金調達をする創業者たちに対して、資金調達できるのはまるでこれが最後のように行動しようと言い聞かせている。この状況での自己強化の性質は、別の方向にも機能するからだ。つまり、追加の投資を必要としなければしないほど、追加の投資を得るのはもっと簡単になる。

もしあなたがすでに致命的なピンチに陥っている場合はどうしたらいいだろう?最初のステップは、追加の資金調達の確率を再評価すること。類まれな予知能力を使って、私があなたに代わって再評価してあげよう。確率はゼロだ。[2]

残された選択肢は三つ。会社をたたむ、稼ぐ量を増やす、そして消費する量を減らすことだ。

何をしても失敗するという確信がある場合は、会社をたたむべきだ。そうすれば、残っている資金を返却して、この資金を使って生き延びることができたであろう時間を節約することができる。

ただし、会社が失敗しなくてはならないということはほとんどない。私はあなたに、もう降参だと認める選択肢を与えているだけだ。

会社をたたみたくなければ、収益を増やして、出費を減らすことになる。多くのスタートアップにとって、出費 = 人件費であり、出費の減少 = 解雇である。[3]解雇の決定はたいてい難しいものだが、難しくとらえるべきではない場合が一つある。あなたは既に解雇すべき人間をわかっているが、解雇から目をそらしている場合だ。これが当てはまるなら、今こそそのときだ。

解雇が利益をもたらしてくれる、あるいは残された資金の収益性の確保につながるのであれば、あなたは差し迫った危険を回避したことになる。

そうでなければ、あなたには選択肢が三つある。優れた人材を解雇する、従業員の一部あるいは全部にしばらく低い給料で我慢してもらう、あるいは収益を増やすことだ。

従業員に低い給料で我慢してもらうのは、問題がひどすぎないときにだけうまくいく、効力の弱い解決策だ。もし現在の軌道が収益性を確保できるほどのものではなくても、給料を減らすことでしきい値を越えることができる場合は、この選択肢の採用を皆に納得してもらえるかもしれない。そうでなければ、あなたはおそらくただ問題を先延ばしにしているだけで、減給の知らせを受けた人たちにとって、これは明らかなことだろう。[4]

こうなると、残る選択肢は二つ。優れた人材を解雇するか、もっと稼ぐかだ。この二つのバランスを取ろうとするときには、最終的なゴールを覚えておくこと。つまり、たくさんの人たちが使ってくれる製品を何か一つ持っているという意味で、成功する会社になることだ。

雇用のしすぎがトラブルの原因になっている場合は、解雇に傾くべきだ。自分が何を作っているかもわからないうちに15人雇ったとしたら、あなたが作った会社は壊れている。あなたは自分が何を作っているのか理解する必要があり、そうするには、15人よりも一握りの人たちでするほうが、おそらくもっと簡単だろう。それに、この15人はあなたが最終的に作るものに必要な人材ではない可能性すらある。つまり、規模を縮小して、どの方向に成長したいかを理解することが解決策となるかもしれないのだ。結局のところ、この15人を乗組員に迎えて会社を飛ばし、墜落させてしまっては、この人たちのためにはならない。いずれは皆、仕事と、この絶望的な会社に費やした時間すべてを失ってしまう。

その一方で、ほんの一握りの人たちだけの場合は、もっと稼ぐことに集中したほうが良いかもしれない。まるで言えばできることのように、スタートアップに対してもっと稼ぐことを提案するのは安直に思えかもしれない。たいてい、スタートアップは自分たちの売り物が何であれ、それを売ろうと最大限の努力を尽くしているものだ。私がここで提案しているのは、稼げるようにもっと頑張れということではなく、何か別の方法で稼いでみてはどうか、ということである。たとえば、営業担当が一人だけで、残りはコードを書いているというのであれば、全員が営業に取り組むことを見当してみよう。倒産してしまったら、もっとたくさんコードを書いてもしょうがないだろう。何か特定の取引を成立させるためにコードを書く必要があるならば、それはそうすべきだ。これは全員が営業に取り組めば起こることである。だが、一番早く、一番多くの収益を得られるものだけに取り組むようにしよう。

別の稼ぎ方をもう一つ紹介する。それは、何か違うものを売るということ、特にコンサルティングのような仕事をするということだ。「コンサルティングのような」というのは、製品開発と純粋なコンサルティングの間には、長くて滑りやすい坂道があるからだ。そして、顧客にとって本当に魅力的なものをオファーできるようになるには、下まで降りていく必要はない。あなたの製品はまだそれほど魅力的なものではないかもしれないが、スタートアップの場合、プログラマーたちは、あなたの顧客たちが抱えている、あるいは雇用できるプログラマーたちよりも遥かに優れていることが多い。あるいはあなたには、顧客が知らないような何か新しい分野の専門知識があるかもしれない。つまり、営業の会話を「弊社の製品を購入してみませんか?」から「たくさんのお金を支払ってでも必要なことは何ですか?」へ、ほんの少し変えるだけで、顧客からお金を引き出すことが突然簡単になったと、あなたは気付くかもしれない。

この方法を始めるときには、徹底的に報酬目当てになろう。あなたは自分の会社を死の危険から助けようとしている。だから、顧客にはたくさんのお金をすばやく支払ってもらうようにするのだ。そして、できる限りコンサルティング最悪の落とし穴を避けるようにしよう。理想的なのは、あなたの製品の、厳密に定義された派生バージョンを顧客のために開発することかもしれない。これは別の方法で製品をストレートに売ったことになるだろう。あなたは知的財産権を保持して、時間ごとに請求する必要は一切ない。

一番良いのは、このコンサルティングのような仕事が、生き残りのためにする仕事というだけではなく、あなたの会社を定義するスケールしないことに変わることだ。そうなると期待してはいけないが、個々のユーザーのニーズに深く入り込んで行くにあたって、その先に広々とした景色がある、狭い隙間に注意するようにしよう。

あなたが本当に無能だというのではない限り、たいてい特注の仕事の需要はかなりあるもので、コンサルティングの坂道のどこかに、あなたが生き残れる場所があるはずだ。だが、私は「滑りやすい坂道」という表現を使ったのは偶然ではない。顧客による特注の仕事に対する尽きることのない需要は、常にあなたを坂道の下まで押しやっていくだろう。つまり、あなたはおそらく生き残れるだろうが、ここでは、ダメージと障害物を最小限に抑えて生き残ることが課題になる。

良い知らせは、成功しているスタートアップの多くが、瀕死状態を生き延びて、繁栄の道を進んでいるということだ。あなたはただ手遅れになる前に自分が瀕死状態にあることに気付かなくてはならない。そして、もしあなたが致命的なピンチに陥っていたら、あなたは瀕死状態にある。

注釈

[1] 最初の一年、あるいは二年の間、収益の獲得を合理的に期待できない会社が多少ある。彼らが作っているものは、本当に長い時間がかかるためだ。こういった会社の場合は、「収益成長率」を「進歩」に読み替えてほしい。初期の投資家たちが、あなたの会社はこういうものだと予め合意していない限り、あなたの会社はこういう会社の一つではない。また率直に言って、こういう会社ですら、こういう会社でなければ良かったのにと願っている。「進歩」の非流動性を理由に、彼らは投資家たちに翻弄されることになるからだ。

[2] 致命的なピンチには変種がある。既存の投資家たちが、もっと投資をすると約束して、あなたを助けてくれるというものだ。あるいはむしろ、彼らはただその可能性について触れているだけなのに、あなたはそれをさらなる投資の約束だと解釈している場合である。この問題を解決する方法は、あなたのランウェイが8カ月以下の場合、今すぐ資金を得るように努めること。そうすれば、あなたは資金を得て、(直近の)問題は解決される。または、少なくともあなたが資金調達の見込みに関する現実から目をそらしたままでいる状態を、投資家たちが助長しないようにしてくれる。

[3] 明らかに、もし給料以外に削減することのできる大きな経費があったら、今すぐそうしよう。

[4] もちろん、あなたが自分自身に対して高い給料を払っていることが問題の原因となっている場合を除く。創業者の給料を最低限必要な程度まで削減することで、収益性を獲得できるのならば、そうすべきだ。だが、これに気付くのに、この文章を読む必要があったのならば、それは悪い兆候だ。

草稿を読んでくれたサム・アルトマン、ポール・バックハイット、ジェシカ・リヴィングストン、ジェフ・ラルストンに感謝したい。

原文 : http://paulgraham.com/pinch.html
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